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男性パートナーとともに暮らす:北インド・ハリドワールの女性「家住行者」にみる奉仕と禁欲
by 邱琡雯, 2021-06-12 20:34, 人氣(907)
濱谷 真理子   文化人類学 82(3), 273-289, 2017    日本文化人類学会

本論文の目的は、北インド巡礼地ハリドワールで暮らす女性「家住行者」たちが、男性パートナーへの奉仕実践を通じてどのように自己を陶冶しようとしているのか、明らかにすることである。ヒンドゥーの出家者は、原則として禁欲の規範を遵守すべきとされており、それは性行為の制御から食事の摂生まで生活全般を律するものである。
しかし、男性行者たちのあいだでは、往々にして性的禁欲の側面が強調され、その努力を妨げる女性は危険な誘惑者として忌避されてきた。こうした禁欲主義の言説が、女性は出家にふさわしくないとする支配的見解を補強し、出家制度から女性を排除、周縁化する一因となってきた。

本論文では、女性行者のなかでも男性パートナーと同居生活を送る「家住行者」に着目し、禁欲主義の理想と異なる生き方を選んだ彼女たちがどのように修行に取り組んでいるのか検討する。女性行者たちに重視される奉仕は、男性パートナーとの不均衡な関係に起因する一方的な贈与行為であると同時に、自己供犠を通じて内面を鍛錬し自己変容をめざす修行でもある。
本論文では、女性行者たちによる奉仕実践とそれが引き起こすモラル・ディレンマに着眼することで、彼女たちが奉仕実践を通じていかに男性中心視点とは異なる方法で禁欲を実践し、自己陶冶しようとしているのかを明らかにする。
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